理屈じゃないとは言うけれど

漫画アニメゲーム小説映画ドラマなんでもござれ。物語世界と現実世界を行き来するのがライフワーク。

デンジに学ぶ、人生をハッピーに生きるコツ

※本記事はチェンソーマン本編(単行本未収録分含む)のネタバレを含みます。ご注意ください。

 

 

チェンソーマン第1部完結&アニメ化おめでとう!!!

あれは忘れもしない2年前の週刊少年ジャンプ第1号、巻頭に載った新連載の第1話に私は完全に心を奪われた。

”最高じゃあないっすか・・・”

何度読み返したかわからない第1話はながやまこはるちゃんのツイートで10万RTされ、本編は毎週のように衝撃展開を繰り返して読者を笑いと涙と混乱の渦に陥れ、いつしか月曜0時のTwitterトレンドはチェンソーマン関連で埋め尽くされるのが当たり前になった。

そしてついに!物語はラスボスとの最終決戦を終えて一区切りをつけるとともに、全読者念願のアニメ化発表と相成ったのである。めでたい!!

・・・まあ正直時間の問題とは思ってたけどな!きっと有能な編集さんが最高のメディア化のために調整してくださってたのだろう。感謝感謝。

 

我らが最高の主人公・デンジ

私はこの作品の敬虔な読者なので、ことあるごとに知人に布教しまくっているのだが

チェンソーマンって何が面白いの?」

と、必ず最初に聞かれるこの質問には

主人公が最高におもしれ―奴なんだよ!

という点をアピールするよう心がけている。

だってそうだろう?いつだって我らが主人公デンジは、読者の期待のナナメ135度上を行くトンデモナイ奴で、だからこそ次の展開がまっっったく読めなくて、でも不思議とデンジなら絶対何とかしてくれると思わせてくれるのだ。

この「何とかしてくれる」という信頼感はバトル漫画の文脈でしっかり裏付けがあったりする。

ざっくり言うと、この世界ではまともじゃなさがメンタルの強さとして、恐怖で支配する敵・悪魔への抵抗力となる。ゆえに ”最高に頭のネジがぶっ飛んでる男” デンジは理論上最強のデビルハンターとなって次々と難敵をイカれたやり方で倒していく、という構図になるのだ。

どれだけ絶望的な状況に追い込まれてもどこ吹く風。敵も味方も予想だにしない行動をあっけらかんとやってみせるので、はたから見てる私たちは笑うしかない。

生まれ育ちにしても公安での扱いにしてもデンジの境遇は決して良いとは言えないが、それでもあの無敵メンタルを見ているとちょっぴり羨ましく思った読者もいたのではないだろうか。 

 

最強のシリアスブレイカー、メンタルブレイクす

そんなシリアスとは無縁の世界を生きていたデンジだが、ある日を境に状況が一変する。

簡単に言えば、ずっと夢見ていてやっと手に入れた普通の生活を一瞬でズタズタにされた挙句、恩人で憧れだったはずのお姉さんに全部お前を絶望させるためだよバーカ!と嘲笑われ、完全に心を折られてしまうのである。

このあたりの怒涛の展開があんまりに無慈悲だったのと、あのデンジがメンブレした事実がとにかく絶望的で、私としても毎週ジャンプを開くのが怖くなるくらいであった。

しかしながら、この後デンジは精神世界で相棒とアレコレしたり民の衆におだてられたりする内に見事に復活し、無事ラスボスをいつものごとく奇天烈なやり方で倒してしまうのである。

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※画像はイメージです。

流石だぜデンジ!と言いたいところだが、ここで1つ注目しておきたいのは立ち直りの早さである。

デンジの強さはメンタルの強さと言っても過言ではないが、最終章での復活劇はいつもと同じようで違うメンタルの強さが表れていると言える。

と言うのも、今までの「何をやってもノーダメージ」な無敵メンタルではなく、「絶望もしたけれど俺は元気です」的な、言わばゾンビメンタルの強さなのだ。

 

この ”無敵メンタル” と ”ゾンビメンタル” の違い、些細なようでめちゃくちゃ大きいんじゃないか?という私の気付きがこの記事を書くキッカケだったりする。

 

人生の幸せを決める2つの軸

前置きが長くなった。では本題に入ろう。 

私がこの記事で問うのは「なぜデンジはああまでもメンタルが強いのか」、言い換えれば「なんであんな人生楽しそうなのか」というテーマである。

チェンソーマンの読者に「デンジの立場になりたいか?」と聞けば恐らく大多数がNOと答えるだろうが、「デンジは幸せそうか?」と聞くと話が変わってくるはずだ。

そう、ヤツはなぜあの境遇でお気楽でいられるのか!デンジのあの最強メンタルの本質は一体何なのか!!そもそも幸せって一体何なんだ!!!

ともすれば有史以前から人類を悩ませ続けている壮大な謎、その答えを探るために我々はジャングルの奥地へと・・・は向かわないが。第1部完から少し経った今、デンジのハッピー野郎な生き様について私なりに整理できたのでつらつら書き残そうと思う。

 

***

 

勿体ぶっても仕方ない。ズバリ!デンジの最強メンタルの秘訣は、

(A)今ある幸せに満足する力

(B)今ない幸せを追い求める力  

の2つのバランスが取れていることにあると結論付けた。*1

・・・順を追って説明しよう。まず(A)今ある幸せに満足する力について、いくつかデンジの台詞を抜粋してみる。

(2巻、永遠の悪魔に閉じ込められる大ピンチの状況で)

「こんないいベッドがあんだ 寝なきゃ損だね 俺ぁ悪魔に感謝して眠るぜ」

(4巻、姫野が死んでも全く泣けず、「人の心までなくなっちまったのか…?」と思った直後)

「ま!シリアスな事ぁ考えなくていっか! 楽しくねえ事考えても楽しくねえだけだからな!」

(6巻、レゼとの激闘の後、海岸で)

「何回ボコボコにされて酷い目にあって死んでも 次の日ウマいモン食えりゃ帳消しにできる」

(11巻、どん底の中で、ふとテレビのCSMコールを見て)

「みんな俺ん事褒めてくれてる…」「スゲえモテてるう~…!」

お分かりだろうか。この切り替えの早さ・都合のよさ、なんとも羨ましい限りである。

どれだけ酷いことがあっても現状を満足に思えるメンタリティ、1話開始時点の底辺生活があってこそではあるが、そう簡単に真似できるものではないだろう。

大事なのは現状に対して心から満足できることである。決して、今自分が持っているもので妥協するのとは違うことをここで強調しておきたい。

 

一方、(B)今ない幸せを追い求める力についても台詞を抜き出してみる。

(1巻、今の生活に足りないものを考え始めて)

「胸揉んでみてえ…」「胸なら強い意志と行動力がありゃ揉めるんじゃ…」

(11巻、さっきまで絶望してたはずのデンジは、岸部隊長とコベニの前で)

「オレえ…ホントはああ 朝…ジャム塗った食パンとかもう飽きてて…!」

「ホントは毎朝ぁあ ステーキとかっ食いてえんですっ!」

「彼女とかもホントは…! 5人!! 10人くらい彼女ほしい!!」

「たくさんセ〇クスしたいい!!」

この他にも「銃の悪魔倒せばマキマさんとあんなことを・・・」「マキマさんと旅行!」のようなモチベもここに数えられる。

特筆すべきは、こうした目的のためなら何でもできちゃう ”強い意志と行動力” である。

これももちろん不死身の体あってこそな場面は多々あるが、どれだけ俗っぽい夢でも他人の目を気にすることなく、どんな絶望からもその夢の為だけに這い上がってこれるのがデンジたる所以なのだろう。

つまり、デンジの最強メンタルを構成する2つの要素のうち、"無敵メンタル"は(A)、"ゾンビメンタル"は(B)にそれぞれ由来してると考えてもらっていいだろう。

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でも最初からじゃないからね、実質マキマさんが育てた最強メンタルだからね。(2巻)

 

 ***

 

ところでこの(A)今ある幸せに満足する力 (B)今ない幸せを追い求める力。並べてみるとなんだか当たり前なことのようだが、実際問題この2つのバランスを取るのがとっても難しいことをお分かりいただけるだろうか。

(A)だけでは、何かの拍子で(あるいは飽きによって)幸せが失われたときにそれを取り戻す術がなくなる。出来ることと言えば過去の栄光にすがるか、それも無ければ環境のせいにすることしかできなくなるだろう。

(B)だけでは、どれだけ努力を重ねて成果を残そうとも幸せへの飢えが満たされることはなく、終わることのない目標の奴隷と化してしまう。それはそれで突き詰めればとんでもない偉業を成し遂げてしまうポテンシャルはあるのだが、その人の精神衛生を考えるなら決して良いとは言えないだろう。

しかしながら(A)(B)を共存させるのは、現状に満足するか・しないかで完全に相反する内容なので実質不可能なのである。

 

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 この例え話も実質同じようなことを言ってるのかな。(5巻)

 

あるいは「幸せなうちは(A)今ある幸せを享受するけど、そうでなくなったら(B)今ない幸せのために努力する」のようにマネジメントしていくのが現実的だし自然なのかもしれない。実際作中のデンジは(A)優位ながらも節目節目で(B)の力を発揮しているようにも見える。

とはいえ作中でデンジが落ち込んでいた場面と言えば、実は開始時点を除けば 胸揉んでも大したことなかったレゼにフラれたみんなしんだ、のたった3か所なのである。

作中の経過時間が示されていないので明確なことは言えないが、今の生活で十分幸せだぜ!という(A)の時間と、マキマさんのぶら下げた人参を追っかける(B)の時間は相当長い間かぶっているのでは?というのが私の見立てである。

生い立ちや性格などの要因が絡んでいるのだろうが、デンジのメンタルの特殊性はナチュラルにこの2軸のバランスが取れていることにあるのではないだろうか。

 

***

 

じゃあそのバランスをとるために、具体的にデンジのどこをマネすればいいの?と聞かれるとなかなか答えに困ってしまう。まさか不死身になれとか言えないし、”恐怖を感じる回路がない*2なんて境地に達するのも常人には到底不可能だ。

それでも1つ、私が確実に言えるのは 「今」「自分が」どうしたいか に忠実に行動することである。

(A)と関連付ければ、ごちゃごちゃ考えずに目の前にある幸せに飛びついてしまえばいいだろう?という話である。目の前のうまいメシ、ふかふかのベッド、今の幸せは今しか感じられないのだから。

(B)と関連付ければ、"今ない幸せ" とか ”夢” とか言ってはみたが結局デンジを突き動かしたのはもの凄く近いところにある動機であって、頑張るなら見栄とか気にせず本当に欲しいもののために頑張ろうぜ!という話である。

特に大事なのは後者の方であって、目標にくるのが「銃の悪魔を倒したい」なんて壮大になってしまうとABの間で簡単にコンフリクトを起こしてしまうが、もっと身近な目標を立ててしまえばすぐに実行に移しやすくなる。もっと言えば、努力のコストとリターンが計算しやすいから自分の意思決定に自信が持てるし、自信が持てればその努力にはやりがいが生じるだろう?という話にも繋がっていく。

・・・もちろんデンジがそんなことを考えてるわけもないが、難しいことをわざわざ考えない、あえてバカになるというのは本人も語っている。それは結局「今自分がどうしたいか」に思考が集中するので理に適ったライフハックと言えるだろう。

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ただし!ただの思考停止、そこに自分の意志が無いとどうなるかと言えば・・・(10巻)

 

結論・人生をハッピーに生きるコツ

久しぶりに長文書いて疲れた。本当はチェンソーマンめっちゃ面白かったね!!!って文章書こうと思ってたのに気づいたら自己啓発系ハウツー本みたいな内容になってしまってな。どうしてこうなった・・・

それはさておき。あのデンジの能天気ハッピー野郎に見えて瀬戸際でもちゃんと踏ん張れる、剛柔兼ね備えた精神性には私以外にも憧れちゃった人がいるんじゃないだろうか。そんな人のために(というか自分のために)再読して振り返りつつまとまったアウトプットをしてみた次第なのである。

 

自分に甘すぎて現状維持以上の行動を起こせないときは、自分が一番やる気の出るような夢をひとつ、どんなにしょーもない内容でもいいので見つけることから始めるのがいいかもしれない。大事なのは内容よりも胸を張って言えることなのだ。

あるいは自分にストイックでいつも頑張りすぎてしまう人は、ちょっと立ち止まって今自分の手元にあるものの有難みを再確認してみてはどうだろうか。人生どうしても頑張らなきゃいけない場面はあるけれど、意外とそうでない時間の方が多いものである。

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復讐しか考えてなかった奴が目の前の幸せにはしゃぐシーン、見ろよこの晴れやかな顔。(5巻)

 

結局のところバランスなのだ。何かに振り切ることでしか得られないものはあるけれど、その時々の自分の幸せを考えるならば ”今ある幸せ・今ない幸せ" の2つを軸に身近なところでセルフコントロールを続けることが一番現実的なのだろうと思う。デンジにはなれなくても、デンジから学べることは沢山あるはずだ。

 

そんなこんなで、デンジの精神性について思っていたことは大体言語化できたと思う。本当はもうちょっと、幸せの数理モデル化をして制御工学的アプローチから幸福度マネジメント論を展開しようとか、大真面目にふざける構想はあったのだが、疲れたのでこの辺にしておこう。

ここまで読んでくれた人はお付き合いありがとうございました。機会があれば定期的にまとまった文章書いていきたいね。

それでは。


*1:もう少し言えば(A)’今ある不幸を無視する力 (B)'今ない不幸を前もって回避する力のように更に細かく区別できるように思える。A/Bは受動的/能動的、AとB'(A'とB)はやや相反するものである。

*2:『このマンガがすごい!2021』の作者インタビュー参照